京都大学11月祭

麻耶雄嵩さん(3)

―2年間地元に戻られて、また現在は京都に住んでいらっしゃるそうですが、その理由は何ですか?

 卒業時は完全に専業でいけるかどうかまだ不安だったので、とりあえず実家に帰って考えようとしたんですけど、やっぱり田舎は刺激が少なかったですね。本格ミステリーの話をする人もいなかったし。京都に戻ってきたのは、ミス研のOB作家が京都近辺にたくさん住んでいらっしゃったからですね。学生時代の土地勘もありましたし。

『隻眼の少女』で、状況や場面の設定が丁寧に描写されていると感じました。何かこだわっていることはありますか?

 あまり自分では意識はしていないですね。ただ、田舎の風景とかって雰囲気が好きで、ビル街とかありふれたものでなく、ちょっとした異世界ではないけど特殊な世界っていうのをアピールしようと思うとが多くなるのかもしれません。

『神様ゲーム』は子ども向けとして書かれていると知って驚いたのですが、ジュヴナイルという意識をもって書かれたのでしょうか。

 最初は編集者さんからは「子どもとかつて子どもだった人たち」向けに書いてと依頼されたんですが、子ども向けは難しいので尻込みしていたら、結局「かつて子どもだった人たち」向けでいいよって言われたんです。でも、人が死ぬのって大人が心配するほどそんなにすごいものなのかなあ、って思う。スプラッタ映画みたいに視覚的にインパクトが強いモノはまずいかなあという思いはあるけど、あれぐらいの刺激なら文章で読む分には問題ないだろうと。むしろ、子どもの方が残酷な部分もあるでしょ。平気で虫を殺したりとか。だからあの程度でも大丈夫じゃないかなという気はするんですけどね。

―『神様ゲーム』で、小学生の男の子が神様という普通だとありえない設定ですが、設定に説得力を出すために何か考えているのでしょうか?

 神様とか超能力はミステリーの本筋には絡まない、ということですね。例えば密室を作れたのは超能力のせいだ、万能の神様だからだ、とすると、読者としてはお手上げですよね。推理のしようがないから。それはやめておこうと考えています。神様は特殊な存在ですけど、あくまでも事件はミステリーの範囲内にする。神様は起こった事件には干渉せず、あくまで人間が起こした、とすることで読者がちゃんと考えられるようにする。神様ができることは小説の中の役割としては限定されている、というのはある程度示しておきたい。SFミステリーっていうジャンルがあるんですけど、よくできているものは、ちゃんと前提条件を示して、この条件から解ける事件を起こして、後付はしない。ミステリーとして面白いのはそういう作品だと思います。

―麻耶さんの小説には、一風変わった探偵が多いように思うのですが、ご自身の中で探偵とはどのような存在ですか?

 名探偵って大好きなんですよ。ホームズから始まってルパン的なものまで。まあ、憧れのヒーローみたいなものです。ただ、同時に名探偵はなぜ名探偵なのかが気になって、実証したくなる。いろんな要素を削っても名探偵たりえるか、と。そういう意味では、名探偵をこれからも書き続けると思いますね。世間からはもう名探偵じゃないと思われても、自分の中ではかっこいい名探偵のつもりで書いています。

―麻耶さんは理系出身ですが、考え方や文章の書き方など、学生時代に学んだことが現在につながっていると思うことはありますか?

 僕はいわゆる文系的な世界を知らないので、違いはわかりませんね。僕はいつも自然に考えているだけなので。唯一あるとしたら、対照実験をやるかどうかかな。対照実験というのは、例えば、薬の実験だと、一方は薬を飲ませて、もう一方には何も入っていないものを飲ませて、効果の現れの差を見比べる。文系の人とくくると乱暴ですが、対照実験が足りない推理をたまに見かけます。有る時のことばかり推理して、無い時のことに言及しないとか。必修で実験をやらされたので、そういうのは気になるんです。

―作品を書く上で気をつけていらっしゃることというのは、やはり論理的な部分ですね?

 論理性は重要だと思います。本格ミステリーは、現実的でないと言われたりしますが、その中で、何をアピールするかというと、トリックの大げささと同時にロジックがアクロバティックに決まっていることだと思います。ロジックがちゃんとしているかが大切。本格ミステリーは現実的でないことを逆に武器にしているジャンルであると思うので、トリックやロジックをおざなりにすると、武器がなくなって単に弱点だけになってしまう。

―論理的に書くために気をつけていることはありますか?

 人それぞれだと思うんですが、僕の場合は解決のロジックのところだけはなるべく丁寧に書く。会話も中盤では長すぎず適度に相槌をうったり話題を変えたりするけれど、解決だけは丸々1ページ改行せずに探偵にしゃべらせたり。人によってはだらだらと見えるだろうけど、仕方がないと思って割り切っています。

―作家として今まで嬉しかったことや辛かったことは何ですか?

 嬉しかったことは、一番は決められないんですけど、長編を書き上げたとき。短編は積み重ねが一冊の本になるという感じなんですけど、長編って、1、2年ずっと書いてて、ようやく形になって完成したっていう思いがあるし。
 辛いのはなかなか書き終わらないとき。書いている途中に、考えているトリックに問題点が見つかったとき。差し替えたり、全部一からやり直したりということがありました。なんとか使い回せるところは使い回そうとはするけど、今までの労力が無駄になるのは辛いですね。

―『貴族探偵』シリーズのドラマ化の話を聞いたときはどう思いましたか?

 本番になるまでは話半分に聞いておこうと思ってました。過度な期待をして下手に吹聴してまわってボツになったら恥ずかしいから。でも、決まったときは嬉しかったですね。

―小説と映像となると、媒体が異なるので、結構変わるところがあると思うのですが、そこは大丈夫でしたか?

 他の人の作品でも映像化は良かったり悪かったりを噂で聞くし、自分でも目にすることはあったので、心配はあったんですけど、探偵自体は推理をしないっていうキャラさえ守ってくれれば後はいいかなと思っていました。ある程度自由にやってくださいって。あまり自分からは何も言わなかったので。そう考えていたら予想以上にいい出来ですごくよかった。『貴族探偵』っていう作品だったから気にせずにやれた。他の作品だったらもう少しこだわる部分が増えて口出ししていたと思います。ドラマはドラマで別物になっててもええかなと思って気楽に見てました。

―これから、どういう作品を書いていこうという展望はありますか?

 今までとは毛色の違うものを書きたいな、というのは前々からあります。いざ取りかかったらうまくいきませんでした、ってのは往々にしてあるので、能力的に書けるかどうかはわからないけど。ちょっと名探偵がふわふわしたような作品を書きたいかな、と。自分の中でもまだ具体的に固まってないんですけどね。

―学生時代にしておけばよかったということや、学生のうちにしておくべきと思うことはありますか?

 言い出せばきりがないけど、勉強しておけばよかったですね。専門科目というより社会学や日本国憲法といった一般教養科目をきちんとやっておいたらよかった。昔は単位をそろえるためのものとしてしか文系の科目をみていなかったけど、面白い授業がタダで聴けるんだから、聴いとけばよかったな、と。当時は自分の学科のことでもう手いっぱいだったけど、そういう授業も覗いておいたらもっと視野が広がったかなと。まあ今となっては思いますが、当時の自分に言っても絶対に行かないでしょうね。
 あと大がかりなことは学生の頃しかできないと思います。小説を書くこともそうですが、時間がかかることや効率が悪いことでも学生のうちならやれるかなと。学生のありあまっている時間を、今しかできないことに、無駄でもいいから使う方がいい。大人になるとまとまった時間というのはとれなくなる。勉学以外にもやりたいことはやったほうがいいと思います。留年しろとまでは言わないですけどね。

―では最後に、学生に対してのメッセージをお願いします。

 今の時間を存分に楽しんでください。社会人になると辛いことも多くなってくるので、学生のうちは楽しむのが一番です。学生の頃は悩みもあっていろいろなものに追われていたけど、終わってからみると、自由になる時間をとろうと思えばとれる期間だった。実際、学生時代がなければ小説を書いていなかったかもしれない。だから、やりたいことを我慢せず存分に浸ってください。

―ありがとうございました。

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