京都大学11月祭

岡崎琢磨さん(2)

―作家になられてから生活ってどう変わりましたか。

 そうですね。元々は卒業するにあたって就活とか別にしなかったんでバイトの面接受けたりもしてて、でもまあいくつかバイトの面接落ちたくらいで丁度お寺のほうで人手が足りなくなったっていうんで(お寺の)手伝いを始めたんですね。で、まあ完全に時給制のアルバイトみたいになってて。で、それから半年ぐらいたってから小説書き始めて、で、一年半くらいたってからかな?小説家になることが決まったんですよね。で、やっぱりそこからはもう、生活というか、いろんな意味でガラッと変わりましたね。投稿してる段階で既にもうかなり書きまくっていたんですけど、プロになるってことを考えたらそれまでのやり方では駄目だと思ったし、本当に大きく、何もかもが変わったって感じですね。デビューしてから僕は幸い本が売れてくれたので、それに伴う、本当にいろいろな体験をさせてもらったので、これは、まあ多分、本当に作家さんのうちでもかなり限られた人しか体験できないようなことっていうのをデビューしてすぐに体験してしまったっていうのはありますね。そういう意味でも自分の部屋で一人黙々と小説を書いていたころからは考えられないような生活の変化で、何もかもが変わったなあっていうことを折にふれ感じていますね。

―大変だったこととかありましたか。

 そうですね。一巻の時はまるごと話を作り変えていて、設定だけ残してる感じで本当に大きく変えたので、それでしかも編集者と直しが上手くいかなくてけっこう泥沼だったんで、それでどうしようかって言っていた時に「四人同時デビューさせるんでそろそろゲラにしましょう」って言われて、いきなり書き上げてゲラになって。なので原稿の段階で赤入れとかしてもらってなくて、ゲラにしてから赤字入れてもらったんで本当に恐ろしいものになってしまったっていう。丸二日くらいほぼ寝ないでやったんじゃないかな。気が狂うかと思いましたね。本出すってこんな大変なんだって思って、その時が一番大変でしたね。

―京都に住まわれていたことがきっかけで京都を舞台にしたんですよね。

 やっぱり実在の地名、実在の土地を舞台にするとしたら福岡と京都しか選択肢がなかったので。で、まあ福岡もコーヒーはまあ有名な土地なんですけど、やっぱり京都のコーヒーの根付いてる感じっていうのは舞台設定としていいんじゃないかなと思って京都にして。京都の本って、歴史的なものにフィーチャーしたものが多いじゃないですか。なんかそうじゃない、京都を舞台にした小説として新たな基軸みたいなものになればいいかなという気持ちで、京都は舞台なんだけれども京都の名所ばかりを扱ってないようなっていう形で書きました。

―改めて京都について書くにあたって、京都に何回も取材とかされたんですか。

 いやー、出来なかったですね。その当時まだプロではなかったし、お金なかったので行けなかったですね。本当にもう、覚えてあることと、あとインターネットで地図調べたりとかということで全部やりました。一巻の四話目くらいが、ものすごく京都の地理を扱ったミステリになっていると思うんですけど、あれはもう全部調べて、距離とかも地図上で全部計算したりしながらやりましたね。ぎりぎりで計算がちゃんと合うようなところを探したり。あれは確かに大変でしたね。

―モデルのお店とかってあるんですか?あんまりメディアとかで言われないですけど。

 モデルは無いと公言してます。全部空想の中で作って、京都っていう土地柄と喫茶店っていうものを掛け合わせた時に、こういうお店があってもいいんじゃないかっていうところからスタートしているので、モデルとかは考えたことが無いですね。

―モデルのお店の検証サイトとかも結構ありますよ。

 あ、そうなんですね。一番近いのが前に言った「Cafe Bibliotic Hello!」っていうお店なんですよね。本当に近いんです。なので、新聞にそこがモデルって書かれたりとか。違うんですけど。だからまあモデルは無いけど、皆さんがそうやってここがモデルじゃないかなとか想像してくれるっていうのはすごくありがたいことだし、そうやって皆さんにとってのタレーランみたいなものを見つけてもらえたら書いたほうも冥利に尽きるという感じですね。

―登場人物のモデルとかはいらっしゃるんですか?

 特に無いですね。

―全部想像?

 はい。でも会う人会う人「アオヤマがお前にしか見えない」って、ほんと百回くらい言われたんですよ。特にやっぱり僕をよく知っている身内とかからそれを言われましたね。僕はそんなつもりで書いていないんですけど、すごいそれは言われますね。僕自身はモデルとかはいないつもりで書いています。

―コーヒーのお話を書かれているんですが、コーヒーにはお詳しかったりするんですか。

 元々好きっちゃ好きですけどそんなに詳しかった訳ではなくて、デビューを目指していろんなところに投稿している中で、題材としてバリスタって面白いかなと思って、それで書いてみようと思って調べ始めた感じですね。だから、結構応募作に対しては選考委員の方から「本当はコーヒー詳しくないでしょ」みたいなことが見抜かれて。実際その通りだったんで何も言えなかったですね。

―作品に出てくるキャラクターの名前が、『タレーラン』シリーズでしたらコーヒーの名前にかけているのが面白いな、と思いましたね。アオヤマくんとか。

 最初、たしか書き始めの時にアオヤマくんの名前のことについては思いついたあたりからスタートしているので、彼だけがコーヒー豆の名前と被っているとなるとちょっと不自然なので、まあ不自然ってことはないですけど、どうせならみんな引っかけるかくらいの感じでやってるので。今にして思えば、アオヤマ君だけにしておいたらもうちょっとナチュラルだったかなと思うんですけど、結局二巻まではそうやってました。

―三巻からはふつうの名前ですよね。

 でも三巻もしばりがあるんですよ、作中で紹介していないだけで。三巻はコーヒーの器具のメーカーの名前なんですよ全員。

―そうなんですか!

 そうなんです。たとえば「さえこ」っていう登場人物がいると思うんですけど、「Saeco」っていうエスプレッソとかのメーカーの名前に引っかけてやってるんですよ。

―中身についても「人が死なないミステリ」ですから誰でも手に取って読みやすいですよね。

 そうですね。元々が「日常の謎」っていうジャンルでやっていたので、「人が死なない」ことを売りにするつもりは全然無いんですけど。

―ならいつかは、人が死んでしまうミステリも。

 そうですね。まあやっぱり人が死ぬっていうのはそれだけ大きな出来事なので、やっぱりその分に見合った出力がないとそれを人間のドラマの中に落とし込んでいくっていうのは難しいかな、と思っているんですけど、だんだんそういうのも出来るんじゃないかなって思えるようになってきたので、まあ恐らくそう遠くない将来そういう作品も書くようになるんじゃないかな。結構、ブームの中で「人が死なないミステリ」っていうジャンルに括られてしまうんですけど、「日常の謎」っていうジャンルを意識して書いたつもりなんですね。「日常の謎」と「人の死なないミステリ」の一番の違いは、日常の謎は本格ミステリなんですよ。人の死なないミステリは本格とは限らない。で、僕はあくまで本格ミステリを書こうと思ってやってきた人間なので、そういう意味では今後も人が死ぬ死なないに関わらず本格ミステリというものを書いていくんじゃないかなと思いますね。

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